2010年01月23日(土) .... オバマ政権の金融業界敵視政策、妙な信用萎縮が起こらなければ良いけど…。
● 先週突如として出てきたオバマ政権の「新金融制度規制案」(日経では新金融規制案と記述、他にも銀行規制強化案との言い方もある)。正確に記すと、いずれ何らかの規制案は出てくるだろうというのは予想されていました。実際、英国では金融機関の高額ボーナスに対する特別課税が出たし、米国でも金融機関に対する特別課税という案が出ていたんです。ところが、今回出てきた規制案の内容は、ほぼ市場関係者全員の想定を超えるもの。グラス・スティーガル法の時代を知っている世代にとっては、その復活を意図したと感じ取っただろうし、大部分の人々が大衆迎合的と感じただろうし、モロ社会主義的に見えるし、その突然(に思える)の方向転換はかなり極端。見方によっては、投資銀行というビジネスモデルすら否定する格好になっています。
● ひとまず、現時点で出ている規制案について簡単に書いておくと、下記の点が伝えられています。
- 銀行(商業銀行)による自己勘定取引(プロップ・トレーディング)の制限
- 銀行(商業銀行)によるヘッジファンド、プライベートエクィティ兼営(投資)の禁止
- 規模拡大の制限(預金シェア10%上限)
● 実際にこれらのビジネスを知っている方々にとっては、本当にこの辺が実施されるとなると、どんなに大きな地殻変動になるかは、容易に想像できると思います。リーマン・ショックを受けて、米国のかつて"証券会社"と呼ばれた大会社は全部"銀行"になっちゃってます。ゴールドマン・サックスしかり、メリルリンチしかり…。そこが大きな影響を受けようとしているってこと。ストレートに解釈すると、積極的リスクテイクが出来なくなるってことだし、リスクテイク無しにはリターンは生まれません(当然の話)。そして、リスクテイクが出来なくなるってことは、ポジション縮小をせざるを得なくなる可能性が高く、それは信用収縮ってこと。信用が収縮するマーケットがどうなるかは、誰もが簡単に理解できると思います。リーマン・ショックでそれ経験したばかりなのに…。
● 今朝の日経には、日本の銀行はそれほど大きな影響はないなんて、実にの~~天気な声が掲載されていました。確かにヘッジファンド投資やプライベートエクィティなどに関してはそうでしょうけど、それは単に「周回遅れ」だから。選択してエクスポージャーが小さいのではないのです。さらに、忘れちゃあいけないのが、日本の株式市場は60%近くの売買が外国人投資家によってなされていること。そして、株価の上下に対して、日本の銀行はかなり脆弱な体質だってこと。その辺が見えてないのか、敢えて見ないようにしているのかは分かりませんが…。
● マーケットにとって何よりも最悪なのは、今回出てきた規制案の全体像が見えてこないこと。「詳細は今後詰める」というのは、想像次第でどこまでもワーストシナリオが膨らむ可能性があるってことで、マーケットも、少なくとも一時的には、それを織り込みに行かざるを得ないのです。こういった場合、往々にしてマーケットは行き過ぎます。ワーストを織り込みに掛かるんだから、それは当然のこと。さらに、信用収縮というのは、最初のきっかけは大したことが無かったとしても、一旦転がり出すと、転がり出した方向に一気に加速して転がる可能性があるってこと。リーマン・ショックでどれほどの規模で信用収縮が発生したかを思い出せば、これも誰にでも分かるハズです。
● もっとも、実際にこの規制法案が通るかどうかは何とも言えない状況にあることも確かで、このまま規制実施に突っ走るとは考え難い面があるのは事実。何と言っても、その場合に到来するであろうマーケットの混乱は、現時点での米政権にとっては、全く不必要なものだからです。それでも、上記したように、マーケットは何よりも不透明感を嫌がります。それが微妙なレベルであったとしても信用収縮を巻き起こし、それが昨年からずっと継続している相場の上昇基調を、あっさりと終わらせてしまうことだって有り得るんです。少なくとも、その匂いを感じ取ったからこそ、米国株はこれだけ2日間で下落したのでしょうしね。
● ずーっと昔にマーケットコメントで書いた覚えがあったのですが(検索したらこちらでした(^^;)、元英国首相、マーガレット・サッチャーさんの有名な言葉を贈りたいです。
"The poor will not become rich, even if the rich are made poor."
「お金持ちを貧乏にしても、貧乏な人はお金持ちになりません」
● 本当にその通りだと感じます。決して金持ちや高額ボーナスを礼賛するわけではないとしても、「金持ち批判」だけでは何も解決しない、ってこと。それよりも、金持ちにスッとお金を出させるように制度を整備した方が、お互いに良い思いをしつつ金が廻ると思うんですけど…。なお、私の見方は当然ながら、多少なりとも、金融業界側にバイアスしていると思いますので、その辺はあらかじめご了承を(^^;。
参考ニュース
- 「情報BOX:オバマ大統領が発表した新たな金融規制案」(ロイター)
- 「シナリオ:米政権が強硬姿勢堅持の場合、金融規制で想定される変化は」(ロイター)
- 「米大統領の金融規制案、考えられる金融機関への影響のシナリオ」(ロイター)
- 「米金融規制案警戒、日本株売り越しに転じる海外勢も」(ロイター)
- 「米金融規制案が市場直撃、リスクマネー収縮なら商品市場に影響も」(ロイター)
- 「オバマ規制案、ゴールドマンなど5行で影響1.2兆円か-JPモルガン」(Bloomberg)
- 「米金融界、新規制案に反発 収益力低下を懸念」(日経)
- 「米政権、金融機関と距離 金融新規制案」(日経)
- 「米銀のファンド投資禁止、米政府が新規制 負債規模に上限」(日経)
追記:参考になるサイト・ブログ
- 「ウォールストリートへの「宣戦布告」の衝撃」(ウォールストリート日記)
- 「リスクテイクに暗雲、金融制度変更、金融機関批判」(武者リサーチ)
そうは言いません。元々「周回遅れ」でエクスポージャーが少なかっただけで、経営判断としてエクスポージャーを落としていたのではありません。つまり、「たまたま」ってことですね。しかし、たまたまであろうがなかろうが、直接的なエクスポージャーが少ないのは違いないので、その点では被害は少ない目です。あくまでも相対比較の問題ですけどね。
さらに書けば、日本のメガバンクは、ニュースになるほど従業員に給料を支払っていません(^^;。これが日本の銀行の経営力の優れたところかどうかは、議論が分かれるところです。というのも、人材を世界中で取り合いしているなかで、本当に優秀なリーダーシップを発揮できる人は、日本のメガバンクで働こうって思いますかね?少なくとも、可能性はそれだけ小さくなるのは、十分にご理解頂けると思います。日本は「働き蜂」はたくさん居るのは間違いないですが…(^^;。
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