fc2ブログ
このマーケットコメントは、資産運用を職業とする国内外の機関投資家顧客向けに書いている落書き帳です。少し違った視点から相場を眺めている一人の声としてお楽しみ下さい!

● 先週突如として出てきたオバマ政権の「新金融制度規制案」(日経では新金融規制案と記述、他にも銀行規制強化案との言い方もある)。正確に記すと、いずれ何らかの規制案は出てくるだろうというのは予想されていました。実際、英国では金融機関の高額ボーナスに対する特別課税が出たし、米国でも金融機関に対する特別課税という案が出ていたんです。ところが、今回出てきた規制案の内容は、ほぼ市場関係者全員の想定を超えるもの。グラス・スティーガル法の時代を知っている世代にとっては、その復活を意図したと感じ取っただろうし、大部分の人々が大衆迎合的と感じただろうし、モロ社会主義的に見えるし、その突然(に思える)の方向転換はかなり極端。見方によっては、投資銀行というビジネスモデルすら否定する格好になっています。

● ひとまず、現時点で出ている規制案について簡単に書いておくと、下記の点が伝えられています。

  • 銀行(商業銀行)による自己勘定取引(プロップ・トレーディング)の制限
  • 銀行(商業銀行)によるヘッジファンド、プライベートエクィティ兼営(投資)の禁止
  • 規模拡大の制限(預金シェア10%上限)

● 実際にこれらのビジネスを知っている方々にとっては、本当にこの辺が実施されるとなると、どんなに大きな地殻変動になるかは、容易に想像できると思います。リーマン・ショックを受けて、米国のかつて"証券会社"と呼ばれた大会社は全部"銀行"になっちゃってます。ゴールドマン・サックスしかり、メリルリンチしかり…。そこが大きな影響を受けようとしているってこと。ストレートに解釈すると、積極的リスクテイクが出来なくなるってことだし、リスクテイク無しにはリターンは生まれません(当然の話)。そして、リスクテイクが出来なくなるってことは、ポジション縮小をせざるを得なくなる可能性が高く、それは信用収縮ってこと。信用が収縮するマーケットがどうなるかは、誰もが簡単に理解できると思います。リーマン・ショックでそれ経験したばかりなのに…。

● 今朝の日経には、日本の銀行はそれほど大きな影響はないなんて、実にの~~天気な声が掲載されていました。確かにヘッジファンド投資やプライベートエクィティなどに関してはそうでしょうけど、それは単に「周回遅れ」だから。選択してエクスポージャーが小さいのではないのです。さらに、忘れちゃあいけないのが、日本の株式市場は60%近くの売買が外国人投資家によってなされていること。そして、株価の上下に対して、日本の銀行はかなり脆弱な体質だってこと。その辺が見えてないのか、敢えて見ないようにしているのかは分かりませんが…。

● マーケットにとって何よりも最悪なのは、今回出てきた規制案の全体像が見えてこないこと。「詳細は今後詰める」というのは、想像次第でどこまでもワーストシナリオが膨らむ可能性があるってことで、マーケットも、少なくとも一時的には、それを織り込みに行かざるを得ないのです。こういった場合、往々にしてマーケットは行き過ぎます。ワーストを織り込みに掛かるんだから、それは当然のこと。さらに、信用収縮というのは、最初のきっかけは大したことが無かったとしても、一旦転がり出すと、転がり出した方向に一気に加速して転がる可能性があるってこと。リーマン・ショックでどれほどの規模で信用収縮が発生したかを思い出せば、これも誰にでも分かるハズです。

● もっとも、実際にこの規制法案が通るかどうかは何とも言えない状況にあることも確かで、このまま規制実施に突っ走るとは考え難い面があるのは事実。何と言っても、その場合に到来するであろうマーケットの混乱は、現時点での米政権にとっては、全く不必要なものだからです。それでも、上記したように、マーケットは何よりも不透明感を嫌がります。それが微妙なレベルであったとしても信用収縮を巻き起こし、それが昨年からずっと継続している相場の上昇基調を、あっさりと終わらせてしまうことだって有り得るんです。少なくとも、その匂いを感じ取ったからこそ、米国株はこれだけ2日間で下落したのでしょうしね。

● ずーっと昔にマーケットコメントで書いた覚えがあったのですが(検索したらこちらでした(^^;)、元英国首相、マーガレット・サッチャーさんの有名な言葉を贈りたいです。

"The poor will not become rich, even if the rich are made poor."
「お金持ちを貧乏にしても、貧乏な人はお金持ちになりません」

● 本当にその通りだと感じます。決して金持ちや高額ボーナスを礼賛するわけではないとしても、「金持ち批判」だけでは何も解決しない、ってこと。それよりも、金持ちにスッとお金を出させるように制度を整備した方が、お互いに良い思いをしつつ金が廻ると思うんですけど…。なお、私の見方は当然ながら、多少なりとも、金融業界側にバイアスしていると思いますので、その辺はあらかじめご了承を(^^;。

参考ニュース

追記:参考になるサイト・ブログ


コメント
この記事へのコメント
■米金融界、新規制案に反発 収益力低下を懸念―賭博師、金融馬鹿にはそれなりの措置を!!
こんばんは。オバマ米大統領が21日表明した新たな金融規制案について、米金融界が反対しています。しかし、アメリカの金融界の体質が、世界規模の金融危機や、リーマン・ショックをひきおこし世界中に迷惑をかけたわけですから、これは当然の処置だと思います。最初は、どのような規制がベストなのかなどは判らないので、まずは入れてみて、良くなければ手直しするか、別のものを導入すれば良いと思います。最初から反対では、全く反省していないと批判されても仕方ないと思います。それから、実質的な国中央銀行の役割を果たしているFRBを国の配下におくべきだと思います。中央銀行が民間などというのは、世界にも例をみないと思います。こうした根本問題を是正しなければ、また同じことが繰り返されると思います。詳細は是非私のブログを御覧になってください。
2010/01/25(月) 15:56 | URL | yutakarlson #.BcbyNME[ 編集]
Re: タイトルなし
> ソノワリに日本のメガバン株価はあまり下落しませんでしたが、感度に鈍くて週明けから本格的に下げるってことでしょうか?

そうは言いません。元々「周回遅れ」でエクスポージャーが少なかっただけで、経営判断としてエクスポージャーを落としていたのではありません。つまり、「たまたま」ってことですね。しかし、たまたまであろうがなかろうが、直接的なエクスポージャーが少ないのは違いないので、その点では被害は少ない目です。あくまでも相対比較の問題ですけどね。

さらに書けば、日本のメガバンクは、ニュースになるほど従業員に給料を支払っていません(^^;。これが日本の銀行の経営力の優れたところかどうかは、議論が分かれるところです。というのも、人材を世界中で取り合いしているなかで、本当に優秀なリーダーシップを発揮できる人は、日本のメガバンクで働こうって思いますかね?少なくとも、可能性はそれだけ小さくなるのは、十分にご理解頂けると思います。日本は「働き蜂」はたくさん居るのは間違いないですが…(^^;。

2010/01/24(日) 16:54 | URL | 虎年の獅子座(管理人) #xjXSaZNA[ 編集]
ソノワリに日本のメガバン株価はあまり下落しませんでしたが、感度に鈍くて週明けから本格的に下げるってことでしょうか?
2010/01/24(日) 00:31 | URL | 名無しの権兵衛 #-[ 編集]
コメントを投稿する (管理者承認後に公開されます。広告や投資推奨などは不可です。よろしく!)
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://torashishiza.blog55.fc2.com/tb.php/849-7808a39f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック